はじめに
建設業で独立・開業を考える方にとって、最初のハードルは「何から始めればいいのか分からない」という点です。
本記事では、建設業を開業するために必要な法的手続き、体制整備、運営準備について、初心者にも分かりやすく解説します。
目次
建設業は、社会のインフラを支える重要な仕事です。
公共工事から、住宅や商業施設の建設まで、暮らしに欠かせない役割を担っています。こうした「社会に必要とされる仕事」に携わることができるのが建設業の大きな魅力です。また、手に職をつけられる業界でもあり、施工管理や専門技術を習得すれば、キャリアアップや独立の道も開けます。さらに、建設業は需要が安定している業界です。
公共工事や災害復旧など、長期的に仕事が途切れるリスクが少ないのも特徴です。
すべての工事に許可が必要なわけではなく、工事の規模によって異なります。
許可が必要なケース
・500万円以上の工事(建築一式工事は1,500万円以上)
・500万円以上の建築一式以外の工事
許可が不要なケース
・500万円未満の工事
・延べ面積150㎡未満の木造住宅工事
許可の有無に関わらず、開業届の提出や法人設立登記(法人の場合)は必須です。
項目 | 個人事業主 | 法人 |
初期費用 | 低コスト | 登記費用や運営コストがかかる |
社会的信用 | 低い | 高い(取引先や金融機関からの信用度が高い) |
節税 | 制限有 | 経費として計上できる範囲が広い |
受注制限 | 法人限定の案件が受けにくい | 大規模な案件を受注しやすい |
廃業のしやすさ | 容易 | 解散手続きが必要でコストがかかる |
小規模でリスクを抑えて始めるなら個人事業主、長期的な事業拡大や信用度・節税を考えるなら法人
・元請け:直接顧客と契約し、施工管理を行う。利益率は高いが営業力や信頼関係の構築が不可欠。
・下請け:元請けの企業から仕事を受注。仕事の安定性は高いが、利益率が低くなりがち。
営業力があり大規模な案件を取りたい場合は元請け。実績を積みながら安定性を重視するなら下請け
自身の経験や市場のニーズを考慮して選ぶことが重要です。
住宅工事(新築・リフォーム・注文住宅等) |
土木工事(道路・橋・河川工事等) |
設備工事(電気・給排水・空調設備等) |
自身の強みを活かせる分野を選び、将来的な成長を見据えた事業を展開しましょう。
許可取得のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
大規模な工事の受注が可能 | 取得に時間と費用がかかる |
信用が高まり、取引先が増える | 維持費が発生する |
融資や補助金の申請がしやすくなる |
500万円未満の工事を中心に行うなら不要
建設業を開業・運営する際、資格の有無は事業の成長や受注できる工事の規模に大きく影響します。
特に、建設業許可を取得する場合には、一定の資格を持つ「専任技術者」の配置が必要になるため、資格取得の有無が事業の方向性を決める大きな要素となります。
今回は、建設業で特に重要な施工管理技士・建築士・電気工事士・土木施工管理技士の取得方法や、資格がなくても開業できるのかについて詳しく解説します。
建設業で求められる資格は、工事の種類や事業の規模等によって異なります。ここでは、代表的な資格とその取得方法を紹介します。
施工管理技士は、建設現場で工事の品質管理や安全管理・工程管理を担当するための資格です。元請け業者として大規模な工事を請け負う場合や、公共工事を担当する場合には必須レベルの資格となります。
・建築施工管理技士(建築工事の現場管理)
・土木施工管理技士(道路・橋・トンネルなどの土木工事)
・電気工事施工管理技士(電気設備工事)
・管工事施工管理技士(給排水・空調設備工事)
施工管理技士の資格取得には、学科試験と実地試験の2つに合格する必要があります。また、受験資格には一定の実務経験が求められるため、経験を積みながら資格取得を目指すことが一般的です。
・1級施工管理技士:5~10年以上の実務経験(学歴により異なる)
・2級施工管理技士:2~4年の実務経験があれば受験可能
・大規模な工事が請け負いやすくなる
・建設業許可の取得要件を満たしやすい
・現場監督としてのスキル証明となる
建築士は、建物の設計・施工監理を行うための資格であり、特に設計事務所を開業や、建築施工の品質管理に関わる場合に必須となります。
1.取得できる資格の種類
・一級建築士:すべての建築物の設計・監理が可能(国家資格)
・二級建築士:主に住宅や小規模な建築物の設計・監理が可能(都道府県単位の資格)
・木造建築士:木造の小規模建築物に特化した資格
建築士になる為には、国が指定する学科を修了し、建築士試験に合格することが必要です。
・大学や専門学校で建築系の学科を修了していること(実務経験が必要な場合あり)
・学科試験(建築計画・環境・構造・法規など)
・設計製図試験(実際に建築設計図を作成)
・設計業務に携わることができ、仕事の幅が広がる
・建築許可や施工監理業務に携われる
電気工事士は、住宅やビル・工場などの電気設備工事を行うための資格であり、電気工事業を営む場合には必須となります。
取得できる資格の種類
・第一種電気工事士:大規模な電気工事が可能(高圧受電設備を含む)
・第二種電気工事士:一般住宅や小規模な店舗の電気工事が可能
試験内容
・学科試験(電気理論・法規・配線設計など)
・技能試験(配線作業の実技)
受験資格
・第二種は受験資格なし
・第一種は実務経験が必要
メリット
・電気工事業の開業に必須
・小規模な工事からスタートしやすい
土木施工管理技士は、道路や橋・ダム・トンネルなどの公共インフラ工事を管理するための資格です。特に、公共工事の受注には必須となることが多く、取得することで事業の成長につながります。
・国土交通省が指定する機関が実施する国家試験に合格することで取得可能。
・学科試験(計画・設計・施工・法規など)
・実地試験(施工管理に関する記述試験)
・公共工事を請け負う際の必須資格
・インフラ整備の管理者としてのスキルを証明できる
資格なしでも建設業を開業できる?
建設業を開業するには、必ずしも資格が必要とは限りません。
ただし、建設業許可を取得するには「専任技術者」の配置が必須となります。
資格がなくても開業可能なケース
・500万円未満の工事のみを請け負う場合(建設業許可が不要)
・資格を持つ専任技術者を雇用する
注意点
・500万円以上の工事を請け負う場合は建設業許可が必要
・無資格では受注できる仕事が限られる
資格なしで開業するなら?
・小規模な工事からスタートする(500万円未満)
・資格を持つ技術者を雇い、許可を取得する
・自分で資格を取得し、事業を拡大する
建設業の資格は事業の成功に直結します。事業を成功させるためにも、資格取得は大きな武器になります。
建設業を営むには、一定の規模以上の工事を請け負う場合、「建設業許可」を取得する必要があります。建設業許可を取得することが、受注できる工事の幅が広がり、信用力の向上にもつながるため、長期的に事業を拡大するなら取得を検討すべき重要な許可です。しかし、許可の取得にはいくつかの条件を満たす必要があり、必要書類や申請手続きも複雑です。
こちらでは、建設業許可申請の条件や流れ、許可が不要なケースについて詳しく解説します。
建設業許可を申請するためには6つの条件を満たす必要があります。
①経営業務管理責任者がいる/建設業を適切に経営できる責任者
(建設業に関する経営経験が5年以上ある)又は(建設業の業務経験が7年以上ある・役員経験等)
②専任技術者がいる
施工管理技士等の資格を持つ技術者を配置する
③誠実性があること
(過去に違反行為は無かったか/法人の場合は役員全員が対象)
④財産的基礎又は金銭的信用があること
(500万円以上の自己資本の証明)又は(500万円以上の資本調達能力の証明)
⑤適正な社会保険に加入すること
・健康保険(協会けんぽor健康保険組合)
・厚生年金
・労働災害保険(労災)
※法人場合は必ず加入が必要
⑥欠格要件に該当しない事
具体例
・過去に刑事罰を受けている(禁固刑以上)
・過去5年以内に建設業法違反で処分を受けた
・暴力団関係者が関与している企業
⓵必要書類の準備をする
具体的な必要書類
・身分証明書(法人場合、役員全員分)
・専任技術者の資格証明書又は実務経験証明書
・(法人登記簿謄本)/法人のみ
・納税証明書(直近1期分)
・資金力を証明する書類(銀行残高証明等)
②許可申請の提出
・知事許可(1つの都道府県で営業する場合):都道府県庁に提出
・大臣許可(複数の都道府県で営業する場合):国土交通省に提出
③審査・許可取得
申請後審査が行われ1~3ヶ月ほどで取得できます。
④許可書の交付
500万円未満の工事なら許可は不要。しかし取得することで大規模な工事を請け負いやすく信用度が高まります。将来的な拡大を考えるなら取得を推奨します。
建設業を開業するには、税務や労務・法人設立などの手続きが必要です。開業後にスムーズな運営を行うために、事前に必要な届け出を把握し、正しく手続きを進めることが重要です。
個人事業主と法人それぞれの開業手続き、建設業特有の届出について解説します。
個人事業主の場合
開業届の提出/税務署(必須)
1ヶ月以内に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出する
提出方法:税務署に直接/郵送/電子申請
青色申告承認申請書の提出/税務署(節税対策)
青色申告を選択すると、最大65万円の控除を受けられる為、節税効果かがある。
2か月以内に税務署に提出する。
法人の場合
⓵法人設立準備
法人の商号(会社名)・事業目的(定款に記載する内容)・資本金の金額・役員構成
②定款を作成後、公証役場で認証を受ける(株式会社のみ必須)
③法人設立登記を申請する/法務局(登記完了まで1~2週間必要)
④税務署・自治体へ法人設立届を提出
・青色申告の承認申請書の提出
⑤社会保険・労働保険の加入
・労働保険関連の提出/ハローワーク・労働基準監督署
・労働保険の加入手続き
建設業特有の届出
・産業廃棄物収集運搬業許可(工事現場で発生する産業廃棄物を適正に処理するため)
許可が必要な場合
・工場現場で排出された廃棄物を自社で運搬する場合
・都道府県の環境関連部署(各自治体)に提出する場合
建設業を開業する為には、事務所の設置や機材の購入、人材確保等に多額の資金が必要です。特に、建設業許可を取得する場合は、最低でも500万円以上の資金証明が求められるため、開業資金の計画をしっかり立てることが重要です。
1.建設業の開業に必要な資金
建設業を開業する為にかかる費用は、事業の規模や業種等によって異なりますが、一般的には500万円~1,000万円の初期費用が必要とされています。
初期費用の主な内訳
費用項目 | 内容 | 金額の目安 |
会社設立費用 | 法人登記費用、公証人手数料 | 約30万~50万円 |
建設業許可申請費用 | 許可申請手数料、行政書士報酬 | 約10万~30万円 |
事務所開設費用 | オフィス賃貸料、オフィス家具 | 約50万~100万円 |
機材・工具の購入費 | 工事に必要な重機・工具・車輛 | 約200万~500万円 |
従業員の採用費 | 給与、社会保険、研修費 | 約50万~200万円 |
材料費の前払い | 建築資材・土木材料の購入費 | 約100万~300万円 |
運転資金 | 開業後3~6ヶ月分の経費 | 約100万~300万円 |
最低でも500万円以上の資金を確保するのが理想です。
2.資金調達の方法
建設業の開業資金を確保する為には、自己資金だけではなく、銀行融資や助成金・補助金の活用が重要です。
⓵自己資金(貯蓄)
全体の30~50%を確保し準備できると、融資の審査に通りやすくなる。
②日本政策金融公庫の融資(操業融資)
・無担保・無保証人で利用可能(条件有)
・最大3,000万円まで可能(運転資金は1,500万円まで)
・金利は1~3%程度で低め
③銀行融資(地方銀行や信用金庫)
・借入額が大きく、金利が比較的低い
・信用実績を作ることで将来的に融資が受けやすくなる
④助成金・補助金
・建設業で活用できる主な補助金・助成金
ものづくり補助金 | 設備投資・IT導入の為の補助 | 最大1,250万円 |
小規模事業者持続化補助金 | 販路開拓・事業拡大のための支援 | 最大200万円 |
創業補助金 | 創業時の経費補助 | 最大200万円 |
自治体の開業支援金補助 | 地域による |
建設業の開業は、社会インフラを支える重要な仕事であり、需要が安定している点が大きな魅力です。開業にあたっては、個人事業主と法人のどちらで始めるかを選び、元請けまたは下請けのどちらの形態で事業を進めるのか、さらには得意とする工事の分野を決めることが重要です。特に、500万円以上の工事を請け負う場合は建設業許可が必要となり、施工管理技士や建築士などの資格取得も求められる場合があります。
建設業許可を取得するためには、経営経験者や専任技術者の配置、財務基盤の確保、社会保険への加入など、いくつかの条件を満たした上で申請しなければなりません。また、開業時には税務署への開業届の提出や法人登記、社会保険の加入などの手続きも必要です。
資金面では、最低でも500万円以上の準備が理想とされており、日本政策金融公庫の融資や各種補助金を活用することで資金調達の幅を広げることができます。長期的な事業拡大を目指す場合は、建設業許可を取得し、信用を高めることが成功への鍵となります。