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「管理体制」が会社の値段を決める?外国人材のクリーンさがM&A評価を左右する理由

2026年3月10日
建設会社M&A

1. なぜ今、労務管理が「査定額」に直結するのか

 前回の記事では、2027年の本格施行に向けて準備が進む「育成就労制度」のポイントや、現場での在留資格確認の重要性を解説しました。こうした実務を「現場の事務作業」として後回しにしていませんか?実は、建設M&Aの最前線において、この「労務管理のクリーンさ」は、最終的な譲渡価格(会社の値段)に大きな影響を与える重要な査定項目になっています。

あわせて読みたい: 建設業界の未来を支える「外国人材」新制度ガイド:育成就労制度への移行と実務のポイント

 人手不足が深刻な今、技術者を抱えていることは大きな強みですが、譲受側(買い手)はそれ以上に「法的なリスク」を注視しています。本記事では、M&Aの舞台裏で行われる「デューデリジェンス」の視点から、外国人材管理がどのように「企業の評価」として反映されるのかを解説します。

2. 買い手企業が「外国人材の比率」以上に気にするもの

 M&Aの買い手候補となる企業が、最も期待するのは「即戦力となるチームの確保」です。しかし、彼らが「技術者の数」以上に厳しくチェックするのが、組織の「コンプライアンス(法令遵守)の質」です。

2-1. 買い手が「リスクのある会社」を避けたい理由

 もし買収後に、職人の不法就労やビザの更新漏れが発覚すれば、買い手企業には計り知れないダメージとなります。

経営上の重大なリスク: 不法就労助長罪に問われれば、建設業許可の取り消しや指名停止を招く恐れがあります。「せっかく投資した会社が、翌日から営業できない」という事態は、買い手にとって最も避けたい事態です。

シナジー※1への悪影響: 本来の相乗効果が得られないどころか、親会社まで含めたブランド毀損につながりかねません。そのため、管理体制が不透明な企業に対しては、どんなに技術力があっても「疑わしきは買わず」という判断が下されるのがM&Aの現実です。

1 シナジー(Synergy): M&A によって複数の要素が組み合わさることで、その企業価値が単に 1 + 1 = 2 になるのではなく、3 にも 4 にもなる相乗効果のこと。


3. M&Aの正念場「デューデリジェンス」で何が起きるか

 交渉が最終段階に入ると、買い手側による「デューデリジェンス」が実施されます。

3-1. 査定額を左右する「管理の証拠書類」

 
 外国人材を雇用している場合、DDでは以下のようなポイントが「評価の乖離」に直結します。

  1. 在留カードの確認履歴:コピーがあるだけでなく、前回の記事で紹介した「読取アプリ」等で組織的にチェックした記録があるか。この「証拠」があるだけで、買い手側の安心感は格段に高まります。

  2. 賃金台帳と社会保険の加入状況:「外国人だから」という理由での低賃金や、サービス残業は厳禁です。ここでの未払い残業代は、「潜在債務」として、譲渡価格から一円単位で差し引かれることになります。

  3. 新制度への移行プロセス:「育成就労」への対応状況も重要です。適切にビザを切り替える計画がある会社は、買い手にとって「買収後の追加コストがかからない優良物件」と映ります。

2 デューデリジェンス(Due Diligence / DD): M&Aを実行するにあたり、買収前に買収対象会社のリスクや価値を評価するためにおこなう詳細調査のこと。買収の最終判断として有効なため、実施されることがほとんどである。



3-2. 「信頼の差」が、そのまま「売値の差」になる仕組み

 会社の値段を決めるとき、買い手は「この会社は、あと何年くらい安定して利益を出し続けられるか?」という視点で評価を下します。ここで「書類のクリーンさ」が、評価期間(年数)の差として現れます。

 例えば、年間1,000万円の利益を出しているA社とB社を比較してみましょう。

  • 管理がクリーンなA社:「労務リスクもなく、2027年以降も安心だ。利益3年分(3,000万円)の上乗せをしてでも買いたい」


  • 管理が不安なB社:「いつかトラブルが起きるかも……。怖いから、利益2年分(2,000万円)に値引かないと買えない」

【比較】「1年分の評価」が招く格差

評価のポイント管理がしっかりしたA社管理が不安なB社
買い手の評価(年数)利益の 3年分利益の 2年分
利益の上乗せ額(のれん※43,000万円2,000万円
最終的な評価の差(基準)▲1,000万円の差



 このように、利益が全く同じでも「信頼の差」だけで、手元に残る金額に大きな開きが出てしまうのがM&Aのシビアな側面です。

3 のれん: M&Aで支払った買収価格のうち、売り手の純資産額を上回った差額のこと。また、ブランド力や企業が有するノウハウ等の無形資産が持つ価値を表す。



4. 逆に「高く売れる会社」が持つ付加価値

 一方で、外国人材の雇用がプラス査定を生み、相場以上の価格で取引されるケースも増えています。

4-1. 資格の「ランク」が将来の収益を保証する

 長期定着が期待できる「特定技能2号」の資格者を抱える会社の価値は、非常に高く見積もられます。家族を呼べる2号資格者は日本に定住する可能性が高く、買い手にとっては「職人が辞めてしまうリスクが低い、安定した資産」と評価されるためです。

4-2. CCUS(建設キャリアアップシステム)という強力な名刺

 すべての外国人材がCCUS(建設キャリアアップシステム)(※外部サイト)に登録され、技能レベルが可視化されている会社は、M&Aの場では「品質保証された組織」として、高く評価されることがあります。

5. 譲渡側(売り手)が手にする「引退後の自由」と「現金」

 労務管理を整えることは、経営者自身が引退後の人生を平穏に過ごすための「最大のリスクヘッジ」でもあります。

5-1. 「表明保証」という名の法的責任

 M&Aの最終契約書には、多くの場合「表明保証※5」という条項が含まれます。

 もし不備があるまま譲渡し、数年後に過去の管理ミスで不祥事が発覚した場合、買い手から多額の損害賠償を請求される恐れがあります。今のうちに管理を整えることは、ご自身の退職後の資金を法的に守ることに直結するのです。

4 表明保証(Representations and Warranties): 売り手が買い手に対して、企業に関する財務や法務等の事項が事実であることを表明し、その内容を保証すること。



5-2. 従業員の未来への「贈り物」

 これまで共に汗を流した職人たちが、譲渡後も正当に評価され、良い待遇で働き続けられること。クリーンな体制を整えておくことで、買い手も安心して彼らを引き受け、活躍の場を与え続けることができます。

6. 2026年、建設経営の「出口戦略」を成功させるために

 外国人材の管理を「事務作業」として片付ける時代は終わりました。これからの建設経営において、それは「企業の資産価値を磨き上げる戦略」そのものです。

 「育成就労制度」への移行を、自社の信頼性を客観的に証明するチャンスと捉えるか。その判断の差が、将来のM&Aにおいて、結果としての「対価」の違いとなって現れます。正しい管理を行い、証拠を残し、透明性を高めること。その積み重ねこそが、皆様が築き上げてきた「会社」と「職人」を、最高の形で次世代へつなぐ信頼の架け橋となります。

ビルドマは、建設業界の技術と経営の価値を正しく評価し、最適なマッチングを支援します。自社の「今の価値」を確認したい方は、ぜひ一度ご相談ください。


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