私たちの頭上を高くそびえるビル、毎日何気なく渡る橋、そして大切な家族と過ごす家。日本の景色を創り、人々の暮らしを支える建設業界は今、100年に一度とも言える大きな転換期を迎えています。
かつて建設現場といえば「きつい、汚い、危険」の3Kの代名詞のように語られることもありました。しかし、現在の建設会社は、デジタル技術を駆使した「スマートな産業」へと鮮やかな脱皮を遂げようとしています。
本記事では、建設会社の「今」を、テクノロジー、働き方、そして社会貢献という3つの視点から、初めての方にも分かりやすく解説します。
目次
現在の建設現場を象徴する言葉は「DX(デジタルトランスフォーメーション)※1」です。もはや紙の図面を広げて頭を抱える現場監督の姿は過去のものになりつつあります。
・BIM/CIM:コンピュータの中に「もう一つの現場」を作る
今、建設業界で標準となりつつあるのがBIM(ビム)※2です。これは、コンピュータ上に現実と全く同じ建物の立体モデルを構築する技術です。
単なる3Dモデルと違うのは、そこに「柱の材質」「価格」「メンテナンス時期」といった膨大なデータが紐付いている点です。これを活用することで、着工前に施工のシミュレーションを完璧に行うことができます。
「配管が柱にぶつかってしまう!」といったトラブルを画面上で事前に解決しておくことで、現場でのやり直し(手戻り)は劇的に減少しました。いわば、デジタル空間で一度リハーサルをしてから本番の工事に臨むようなものです。
・ロボットと自動化の波:力仕事は機械の役割へ
深刻な人手不足を背景に、ロボットの導入も加速しています。
自律走行型ロボット:資材の運搬や現場の清掃、夜間の巡回を自動で行います。
自動化重機:GPSやセンサーを活用し、熟練のオペレーターでなくても数センチ単位の正確な掘削(地面を掘ること)が可能な重機が登場しています。
ドローン測量:かつては数日かけて歩き回っていた広大な敷地の測量も、ドローンを使えばわずか数十分で、しかも高精度なデータとして完了します。
※1:DX(デジタルトランスフォーメーション)
デジタル技術を浸透させることで、人々の生活やビジネスの仕組みをより良いものへと変革すること。
※2:BIM/CIM(ビム・シム)
BIMは建物(建築)、CIMは橋やダム(土木)の立体モデルに情報を持たせる仕組みのこと。
建設業界の最大の課題は、担い手不足と高齢化です。この課題を克服するため、多くの建設会社が「新3K(給与がよい、休暇が取れる、希望が持てる)」の実現に本気で取り組んでいます。
・「週休二日」は当たり前の時代へ
かつての建設現場は「雨が降れば休み、晴れれば稼働」という不規則なサイクルが一般的でした。しかし、今では大手ゼネコン(総合建設会社)を中心に「4週8閉所※3」の動きが加速しています。
ITツールの活用により、現場に行かなくてもできる事務作業が増えたことで、他の産業と同等の休日を確保できる環境が整いつつあります。
・「遠隔臨場」が変えた現場監督の日常
ウェアラブルカメラ(身体に装着する小型カメラ)の普及により、現場に行かなくても事務所や自宅から現場の状況を確認できる「遠隔臨場(えんかくりんじょう)」が普及しました。
これにより、一人の技術者が複数の現場を効率的に管理できるようになり、移動時間の削減と残業時間の短縮が実現しています。育児や介護と両立しながら第一線で活躍する女性技術者も、着実に増えています。
※3:4週8閉所
4週間(28日間)の中で、現場そのものを8日間完全に休みにすること。実質的な完全週休二日制を指す。
脱炭素社会(カーボンニュートラル)の実現に向け、建設会社に求められる役割は非常に大きくなっています。建物を「建てる時」だけでなく、その後の「使う時」や「壊す時」までを考えた環境対策が進んでいます。
・ZEB(ゼブ):エネルギーを自給自足するビル
消費するエネルギーと、太陽光発電などで創り出すエネルギーをプラスマイナスゼロにする「ZEB」※4の開発が進んでいます。
高性能な断熱材や、AIによる空調管理などを駆使した「エネルギーを無駄にしないビル」が、これからの都市のスタンダードになろうとしています。
・木造中高層ビルの台頭:街を森にする
最近の大きなトレンドの一つが「都市部での木造建築」です。
耐火性能(火に強い性質)を高めた新素材「CLT(シーエルティー)」※5の開発により、これまで鉄筋コンクリートが当たり前だった10階建て以上のビルを木造で建てることが可能になりました。木は二酸化炭素を蓄える性質があるため、木造ビルを建てることは「街の中に森を作る」ような環境貢献につながるのです。
※4:ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)
建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと。
※5:CLT(直交集成板)
木の板を互い違いに積み重ねて接着したパネル。軽くて丈夫で、断熱性や耐火性にも優れる新しい木材。
建設会社の役割は、新しいものを作ることだけではありません。特に地方において、建設会社は「地域の守り神」としての側面を持っています。
・防災・減災の最前線
近年激甚化する台風や地震などの自然災害において、真っ先に現場に駆けつけるのは地元の建設会社です。
道路を塞ぐ土砂を取り除き、河川の決壊を防ぎ、寸断されたライフラインを復旧させる。彼らが持つ重機と、地域を熟知したノウハウがなければ、私たちの安全は保てません。
最近では、堤防の劣化をAIで診断したり、センサーで土砂崩れの兆候をいち早く察知したりする「予防」の技術も進化しています。
建設業界の「今」を一言で表すなら、それは「クリエイティブなサービス業への変貌」です。
単なる力仕事のイメージを脱ぎ捨て、AIやロボットを使いこなしながら、地球環境をデザインし、人々の命を守る。そんな高度で知的、かつ社会的意義の大きい役割を担う業界へと進化しています。
これから建設業界を目指す若者にとって、ここは「最新テクノロジーの壮大な実験場」であり、「自分の仕事が地図に残る、最高のステージ」です。
いかがでしたでしょうか。
建設会社の「今」は、私たちが想像する以上にハイテクで、かつ人間味に溢れた変革の真っ只中にあります。
コンクリートを流し込む音だけでなく、タブレットを操作する音や、ドローンが空を飛ぶ音が響く現代の現場。そこには、新しい時代を切り拓こうとする人々の情熱が詰まっています。
もし、あなたが街で工事現場を見かけたら、フェンスの向こう側を少しだけ想像してみてください。そこには、最新のテクノロジーを駆使して、私たちの10年後、20年後の未来を創っている「クリエイター」たちが、今日も汗を流しているはずです。