はじめに
建設業は高所作業や重量物運搬、大型機械使用など危険が伴い、墜落・転落事故や挟まれ・巻き込まれ事故が多発しています。令和5年(2023年)の死亡災害は223件で、全産業の約29.5%を占め、特に墜落・転落が40%を占めています。事故は作業の遅延や企業の信頼低下を招くため、安全管理とリスクマネジメントの徹底が不可欠です。
安全対策には、安全教育の徹底、作業環境の改善、最新技術の活用、安全書類の適正管理が必要です。DXの活用により、AI監視カメラやウェアラブルセンサーなどの技術導入が進み、安全対策の効率化が図られています。
本記事では、建設業の安全管理とリスクマネジメントの具体策を解説し、労働災害防止、安全書類管理、リスク管理の実践方法について紹介します。
目次
建設業界における労働災害の統計
建設業は、他産業に比べて労働災害の発生率が高いのが特徴です。令和5年(2023年)の死亡災害は223件にのぼり、建設業が全産業の中で最も多くの死亡事故を抱える業界のひとつであることがわかります。
特に、墜落・転落事故は死亡災害の約40%を占める深刻な課題です。その他、「挟まれ・巻き込まれ」「飛来・落下物」「転倒」なども発生件数が多く、適切な対策を講じなければなりません。
墜落・転落事故(足場の不備、安全帯の未使用)
高所作業中の事故は、足場の不備、安全帯の未使用、開口部の未養生が主な原因となります。例えば、仮設足場の設置ミスや点検不足によって、作業員が転落し重傷を負うケースが多発しています。
・効果的な対策:作業開始前の足場点検と、安全帯の着用の徹底
また、最近では、AIカメラによる安全帯の装着確認や、ウェアラブルセンサーによる転落検知システムの導入が進められています。
挟まれ・巻き込まれ事故(重機操作ミス、クレーン作業)
クレーンやショベルカーなどの重機を使用する際に発生しやすい事故です。例えば、作業者が誤って重機の稼働範囲に入り、オペレーターの視界の死角に入ることで事故につながることがあります。
・効果的な対策:作業エリアの立ち入り制限や、適切な誘導者の配置、AIセンサーによる接近検知
転倒事故(不整地での作業、適切な履物の未使用)
転倒事故は比較的軽傷で済むことが多いものの、発生件数は非常に多いです。原因として、地面の不整備、資材の散乱、適切でない履物の着用などが挙げられます。
・効果的な対策:作業環境の整理整頓や、滑りにくい作業靴の義務化、5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の徹底
熱中症・健康被害(夏場の過酷な環境、適切な休憩・水分補給の不足)
気候変動の影響で、建設現場の熱中症リスクが増加しています。特に直射日光下での長時間作業や、適切な水分補給の不足が熱中症の主な原因となります。
・効果的な対策:こまめな水分補給、冷却ベストの着用、ミストシャワーの設置
さらに、作業員の体調をAIで管理し、異常を検知するシステムも活用されています。
労働災害は、大きく3つの要因に分類されます。
・ヒューマンエラー(経験不足、疲労、注意不足)
・設備・環境要因(老朽化、保守点検不足)
・ルール・教育不足(安全教育の未実施、不十分な管理体制)
建設業における労働災害を防ぐためには、適切な安全教育、装備の使用、作業環境の整備が必要です。以下に、それぞれの対策を詳しく解説します。
・安全教育の強化
1. 新人研修の重要性
建設業では、経験不足の作業員が労働災害に遭うリスクが高いため、新人研修の充実が不可欠です。特に、安全帯の正しい装着方法や足場の点検手順など、基本的な安全対策を徹底することが重要です。また、新人が現場に適応するまでの間、先輩作業員がマンツーマンで指導するOJTを導入することで、安全意識の向上が期待できます。
2. 定期的な安全講習・訓練の実施
現場作業は慣れが生じるほどリスクが増すため、定期的な安全講習が重要です。特に、墜落・転落や巻き込まれ事故など、発生件数の多い労働災害をテーマにした講習を実施することで、作業員のリスク意識を高めることができます。さらに、実技を交えた安全訓練を行うことで、緊急時の対応能力を強化することも大切です。
近年では、VRシミュレーションを活用した研修が増えており、現場で起こりうる危険を体感しながら学ぶ手法が注目されています。
・適切な装備の使用
1. ヘルメット、安全帯の正しい使い方
ヘルメットや安全帯は、墜落・転落事故や頭部損傷を防ぐ最も基本的な安全装備です。
・ヘルメットは正しくあごひもを締め、定期点検を実施することが重要。
・安全帯は適切な高さに確実に固定し、作業中のフックのかけ忘れを防ぐための教育が必須。
・二重フック式安全帯の導入により、安全性をさらに向上させることができます。
2. 作業着や防護具の基準
作業着や防護具は、作業環境に適したものを選び、安全性能を確保することが重要です。
例えば、
・高所作業では滑りにくい靴
・電気工事では絶縁性の高い手袋や靴
・粉じん環境では防じんマスクやゴーグル
また、JIS規格やISO基準を満たした防護具を選択し、定期的なメンテナンスを行うことで、安全性を維持できます。
1. 5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の実施
建設現場では、5S活動を徹底することで労働災害を未然に防ぐことができます。
・整理・整頓を徹底し、資材や工具の放置を防ぐ
・定期的な清掃で、滑りやすい床や粉じんの蓄積を防止
・5Sを習慣化し、安全な作業環境を維持する
2. 足場や通路の安全確認
・足場の強度や水平・垂直のバランスをチェックし、組み立て時と作業開始前の点検を行う。
・通路には障害物を置かず、滑りにくい素材を使用して転倒事故を防ぐ。
・高所作業時には安全帯の装着義務化を徹底し、転落事故を防止する。
3. 標識・警告表示の適正化
・危険区域や高所作業エリア、重機の稼働範囲には明確な警告標識を設置する。
・多言語対応の標識やピクトグラムを活用し、外国人労働者にも安全を周知する。
・適切な標識管理を行い、作業員の安全意識を向上させる。
リスクマネジメントの基本概念
リスクマネジメントは、以下の4ステップで管理することが重要です。
ステップ | 内容 | 目的・ポイント |
---|---|---|
① リスクの特定 | 現場の危険要因を洗い出す | 転落、感電、挟まれ、重機の接触など、潜在的なリスクを把握する |
② リスク評価 | 発生確率と影響度を分析する | 「どのくらい起こりやすいか」「起きた場合の被害はどの程度か」を数値・ランクで評価 |
③ リスク対策 | 安全対策を実施してリスクを軽減 | ヘルメット着用、立入禁止区域の設置、設備の安全点検などを行う |
④ モニタリング | 定期的に点検・評価し改善を図る | 点検記録、作業員からのフィードバックをもとに継続的に見直しを行う |
1. ヒヤリハット報告制度(危険予兆を事前に把握)
作業中に「ヒヤリ」とした出来事を記録し、事故につながるリスクを分析する。
報告を積極的に促すことで、作業員の安全意識を向上させる。
2. ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)の導入
安全管理を体系的に強化し、継続的なリスク低減を実現する。
国際規格に基づいたリスクアセスメントを実施し、労働環境の安全を確保。
3. BCP(事業継続計画)と建設業の災害対策
地震や台風などの災害時に迅速な対応を可能にする計画を策定する。
仮設設備の安全確保、避難計画、緊急時の通信手段の確保が重要。
4. AI・IoTを活用したリスク管理(リアルタイム監視、作業員の動態管理)
AIカメラで安全帯の装着確認や危険行動をリアルタイム監視する。
ウェアラブルセンサーで作業員の健康状態をモニタリングし、熱中症や過労を防止。
建設業では労働災害が企業経営にも深刻な影響を及ぼすため、安全管理とリスクマネジメントの強化が不可欠です。安全教育、適切な装備使用、作業環境整備を徹底するとともに、AIやIoTなど最新技術を活用して精度を高める必要があります。各企業は現場ごとのリスクをアセスメントし、適切な安全対策を導入し、DX化により効率的で高度な安全管理を実現できます。