「脱炭素」や「GX(グリーントランスフォーメーション=環境に配慮したビジネスへの変革)」は、数年前までは大手ゼネコンや一部の先進的なデベロッパーが中心となって取り組むテーマと考えられていました。
しかし近年では、地場ゼネコンや地域の工務店などの建設会社にとっても、環境への取り組みが受注機会や競争力に影響を与える場面が増えつつあります。
国や自治体の入札制度では環境への取り組みが評価項目となるケースが見られ、民間企業からも省エネ性能の高い建築物(ZEB・ZEH)への対応を求められる機会が増えています。
本記事では、「現場のGX」の動向と、こうした取り組みが中長期の企業成長や将来のM&Aにおいて、どのような評価につながる可能性があるのかを、解説します。
| 項目 | 具体的な動き |
| 法制度の変更 | 新築住宅への省エネ基準適合が義務化 ※建築物省エネ法の改正 |
| 公共工事の評価 | 総合評価落札方式で、環境認証や低炭素施工が評価されるケースが増加 |
| 民間需要の拡大 | 工場・オフィスなどでZEB対応を求める発注者が増加 |
目次
「環境対応と言われても、専門用語が多くて分かりにくい」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。まずは、建設業の実務でも耳にする機会が増えている3つのキーワードを整理します。
経済成長と温室効果ガスの排出削減を両立させるための取り組みを指します。建設業では、建物の省エネ性能を高めるだけでなく、施工プロセス(現場で使用する重機や資材の選定など)における環境への配慮もGXの一つとして位置付けられています。
高い省エネ性能と創エネルギーを組み合わせ、建物で消費する年間の一次エネルギー消費量の収支を実質ゼロにすることを目指した非住宅建築物(工場・オフィス・福祉施設など)の考え方です。
ZEBの住宅版にあたる考え方です。高い断熱性能や省エネ設備、創エネルギー設備などを組み合わせ、年間の一次エネルギー消費量の収支ゼロを目指す住宅を指します。
これらは決して「一部の企業だけの話」ではありません。入札制度の見直しや民間発注者のニーズの変化を背景に、地域の建設会社にとっても、受注や提案力に関わる重要なテーマになりつつあります。
なぜ環境対応への関心が高まっているのでしょうか。その背景には、建設業における受注の仕組みが、環境への取り組みも評価する方向へ変化していることがあります。
国土交通省や地方自治体が発注する公共工事では、総合評価落札方式において、「エコアクション21(中小企業向けの環境マネジメント認証)」の登録や、「低炭素型建設機械」の使用実績などが評価項目となるケースが見られます。
技術力や価格に加え、環境への取り組みを可視化できている企業が評価される場面も増えており、受注競争における一つの差別化要素になりつつあります。
製造業や流通業などの大手企業では、自社が建設する工場やオフィスに対し、ZEB水準など省エネ性能への対応を求める動きが広がっています。
その背景には、投資家や取引先から、グループ企業だけでなくサプライチェーン全体での脱炭素への取り組みが重視されるようになっていることがあります。
そのため、建設会社にも環境対応や省エネ建築に関する知見が求められる場面が増えており、こうした実績やノウハウが提案時の強みとなる可能性があります。
建設会社にとって比較的取り組みやすいのが、市場の拡大が続く省エネ建築への対応です。住宅・非住宅のいずれにおいても、ZEB・ZEHへの対応力は、受注や提案の幅を広げる要素の一つになりつつあります。
法改正を背景に、高気密・高断熱をベースとしたZEH水準の住宅は、今後の住まいづくりにおける標準的な性能として求められる場面が増えています。こうした対応力は、お客様からの信頼や提案力の向上にもつながる可能性があります。
オフィスや工場などのZEB対応には、設備設計や省エネに関する専門的な知識が求められます。対応できる企業がまだ限られている地域では、ノウハウを蓄積することで、価格以外の強みとして評価される場面も期待できます。
脱炭素対応が企業にもたらす主なメリット
① 入札・コンペでの評価につながる可能性
公共工事では、環境への取り組みが評価項目となるケースもあり、受注競争における差別化につながる可能性があります。② 新たな受注機会の創出
ZEB・ZEHへの対応実績は、民間企業からの相談や継続的な取引につながるきっかけとなる場合があります。③ 採用活動でのアピール材料
環境や社会課題への関心が高い若手人材に対し、自社の取り組みを伝えることで、企業の魅力を発信しやすくなる可能性があります。
脱炭素への対応を一度に進める必要はありません。自社の状況に合わせて、取り組みやすい内容から少しずつ実績を積み重ねていくことが、現実的な進め方といえるでしょう。
1. エコアクション21などの環境認証を取得する
まずは環境への取り組みを仕組みとして整えることから始めます。
ISO14001の取得が難しい場合でも、中小企業向けの「エコアクション21」であれば、比較的取り組みやすい選択肢の一つです。公共工事で評価対象となる自治体もあり、民間企業への提案時にも自社の取り組みを伝える材料として活用できます。
2. 省エネ設計・施工に関する知識を社内に蓄積する
設計担当者や施工管理技士に対し、ZEB・ZEHに関する講習や研修への参加を支援します。省エネ建築に対応できる技術者が社内にいることは、発注者への提案力や対応力を高める要素の一つになります。
3. 現場での環境配慮を実践し、記録として残す
低騒音・低燃費型の建設機械やLED仮設照明の導入など、現場で実践できる取り組みから始めることも有効です。あわせて工事ごとの取り組みを記録し、施工実績として整理しておくことで、営業活動や入札時の説明資料として活用しやすくなります。
重要なのは、「日々の取り組みを記録し、可視化すること」です。環境への取り組みを認証や実績として整理しておくことで、発注者や入札審査において、自社の取り組みを客観的に伝えやすくなります。
資材価格の高騰や人手不足への対応など、建設会社を取り巻く経営環境は年々変化しています。その中で、環境対応は一時的なコストや負担として捉えられることもありますが、中長期的には受注機会の拡大や企業の競争力につながる取り組みの一つと考えられます。
ZEB・ZEHへの対応や現場でのGXの実践を積み重ねることは、新たな顧客との接点づくりだけでなく、人材採用や既存取引先からの評価にもプラスに働く可能性があります。また、こうした取り組みは、将来的に事業承継やM&Aを検討する際にも、自社の強みとして評価される要素の一つになることが期待されます。
まずは自社で取り組みやすいことから実践し、その実績を積み重ねていくことが、持続的な成長につながっていくのではないでしょうか。
この記事の執筆者

井上 絢翔(Kento Inoue)
國學院大學法学部卒業後、建設業界の法人営業を経て株式会社インフィニティライフに参画。現在は学習塾業界を中心にM&Aアドバイザーとして活動。
前職の知見と誠実な姿勢を活かし、経営者の想いに寄り添う支援に注力している。