昨今、全国で相次ぐ自然災害や、高度経済成長期に造られた道路・橋・トンネルといった生活インフラの老朽化が大きな社会問題になっています。これからは、新しい建物をゼロから建てるだけでなく、今ある街のインフラを「直す・守る」という防災・国土強靭化(ナショナル・レジリエンス)※1のニーズが今後も続いていくと言われています。
本記事では、地方の公共工事において最高峰の「Aランク」などの高い格付けを維持し、インフラ補修の現場で活躍する企業に焦点を当てます。そうした会社が、なぜこれからの時代に強い経営基盤を持つと言えるのか、他社には簡単に真似ができない「現場力」の実態を分かりやすく考察します。
※1 国土強靭化(ナショナル・レジリエンス):地震や台風などの自然災害が起きても、致命的な被害を受けず、迅速に復旧できる「災害に強い国や地域」をつくるための国を挙げた取り組みのこと。
目次
社会の景気の波や民間企業の設備投資の動向によって、予算が真っ先に削減されがちな民間の建築投資とは異なり、国や地方自治体が主導する「防災・減災」に関わる公共予算は、住民の命を守るという絶対的な目的があるため、非常に安定して計上される傾向があるようです。
そのため、景気の悪化によって仕事が一気に消えてしまうようなリスクが極めて低い分野であると言われています。
橋梁の長寿命化対策
日本全国にある、造られてから40年以上が経過したコンクリート橋や鉄骨の橋を補強する工事です。ひび割れの補修やサビ止めの塗装、床板の取り替えなど、寿命を延ばすためのメンテナンス工事は地域内で常に回り続けています。一度施工を終えても、数年後にはまた別の箇所の点検や補修が必要になるため、継続的な受注が期待できます。
川の氾濫を防ぐインフラ整備
毎年のように発生する「線状降水帯」による大雨や、台風による洪水の被害に備え、川の水が溢れないように岸辺を特殊なブロックで固めたり、土手をかさ上げして補強したりする工事の重要性が一段と高まっています。
斜面の土砂崩れ・落石防止対策
山がちで傾斜の多い地方都市において、大雨の際の大規模な土砂崩れや道路への落石を防ぐための防護壁の設置、地盤を金属のボルトで固定する特殊なアンカー工事の依頼は、年間を通じて途切れることがないと言えます。
このような公共の修繕工事は、一時的な流行で終わるものではなく、今後も数十年にわたって定期的な手直しが必要とされる、いわば「終わりのない需要」に支えられているのが大きな特長です。新築中心の会社が受注難に苦しむ中でも、安定した売上を維持しやすい基盤がここにあると考えられています。
各自治体や省庁が発注する大規模な公共工事の入札に参加するためには、各企業が持っている過去の実績や技術力、経営状態などに応じて、「Aランク」の格付けを割り振られている必要があります。
この格付けは、新規参入の起業や異業種の企業がいくら豊富なお金を払って手に入れようとしても、数日や数ヶ月の短期間では決して手に入らない強固な壁であると考えられています。
数日や数ヶ月の短期間では決して手に入らない
「過去に同じような規模の公共工事をミスなく、かつ安全にやり遂げたことがあるか」という実績の積み重ねが厳格に点数化されます。この実績がない会社は、そもそも大きな工事の入札に参加する権利すら得られない形です。どれだけ資本力があっても、時間を味方に付けなければ得られない実績と言えます。
健全でクリアな決算書と財務状態
長年の堅実な経営によって、自己資本がどれくらい蓄えられているか、経営の安全性やキャッシュフローが適切かどうかも、行政の審査(経営事項審査など)で細かく評価されます。税金を使って発注される工事だからこそ、途中で倒産するリスクのない企業だけが選ばれる仕組みになっています。
地域社会との間に築かれた深い信頼
「地域の災害時にいち早く自社の重機とスタッフを現場に出し、緊急の復旧作業に全面協力した」といった、長年にわたる地元自治体や住民との地道な信頼関係こそが、高い格付けを下支えする大きな要素になっているようです。
このように、Aランクをはじめとする高い入札資格は、ゼロから営業をかけたり、無茶な価格競争を仕掛けたりしても追い付くことが難しい、その会社だけの強固な「参入障壁」として機能していると言えます。この資格を維持していること自体が、他社には真似できない独自の価値を生み出しています。
まっさらな更地に新しい建物を図面通りに建てていく一般的な新築工事と、すでに長い年月を経て傷んでしまっている既存のインフラを直す工事とでは、現場に求められる技術や段取りの難易度が大きく異なると言われています。
そのため、新築を得意とする企業であっても、細かな補修工事の現場では思ったように効率を上げられないケースも少なくないようです。
臨機応変な現場の対応力
事前の図面通りにいかないのが古い建物の修繕の難しいところです。コンクリートの壁を実際に剥がしてみるまで分からないような、想定外の内部の劣化や地盤の緩みに対して、熟練の現場監督や職人がその場で最適な工法を判断し、実行する力が求められます。
徹底された安全管理の手腕
今にも崩れかけている危険な崖の近くでの作業や、多くの車が走り続けている道路のすぐ脇での補修など、常に二次災害の危険と隣り合わせの環境において、無事故・無災害を維持する管理体制が必要です。これは数多くの現場をくぐり抜けてきた経験から培われるものです。
特殊な工法に対応できる組織体制
コンクリートの内部を傷つけずに特殊な樹脂を注入して補強する技術や、傾斜地などの狭い場所でも安全に作業ができる特殊な重機の操作など、専門性の高い技術を持つ熟練スタッフが社内に揃っていることが強みになります。
どんなに素晴らしい計画や予算があっても、それを実際の厳しい現場環境で安全に形にできる熟練スタッフが揃っていること自体が、会社の本当の総合力であり、持続可能な強みであると考えられます。
日本の人口減少に伴い、民間の新築需要や新しい大規模開発の案件が次のフェーズへと移行しつつあるこれからの時代において、防災やインフラ修繕の実績を豊富に持ち、公共工事でAランク格付けを維持している建設会社は、非常に高い安定性を持った稀有な存在であるようです。
これまで地元の安心な暮らしを陰で支え続けてきた歴史や、他社が簡単に割って入れない強固な入札権は、目に見える単年の利益以上の価値を持つ、会社の偉大な財産であると言えます。時代の激しい波に振り回されることなく、地域社会の安全を支え続ける仕組みを整えておくことは、日々の安定した雇用を守る上で重要です。
それは将来的に、M&Aで高く評価される側になる場合はもちろん、逆に他社を迎え入れてエリアを拡大する「買い手側」へと成長する際にも、未来の選択肢を広げる基盤となっていくのではないでしょうか。
この記事の執筆者

井上 絢翔(Kento Inoue)
國學院大學法学部卒業後、建設業界の法人営業を経て株式会社インフィニティライフに参画。現在は学習塾業界を中心にM&Aアドバイザーとして活動。
前職の知見と誠実な姿勢を活かし、経営者の想いに寄り添う支援に注力している。