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建設業の労務管理:社会保険・労災・給与のポイント

2025年5月12日
建設会社M&A

はじめに

建設業の労務管理とは?

 建設業の労務管理は雇用形態が多様で、正社員・契約社員・一人親方が混在し、現場ごとに勤務形態が異なります。

工期や天候の影響を受け、労働時間や休日管理が難しく、多重下請構造における調整が必要です。

 CCUSの導入により、技能者の就業履歴や資格をデータ化し、賃金・労働時間の適正管理が可能となり、社会保険未加入問題の解決も期待されています。また、社会保険・労災保険への適正加入は、労働者保護だけでなく、未加入による行政処分や入札資格喪失のリスク回避にもつながります。

適切な労務管理により、人材確保や企業の評価向上が実現し、大規模案件の受注や企業成長に貢献します。

建設業における社会保険の基本

 建設業の社会保険は、健康保険と厚生年金を含み、労働者の生活を支える重要な制度です。

健康保険は医療費の補助、厚生年金は老後の生活資金確保を目的とし、過酷な労働環境の建設業では適切な加入が求められます。

加入要件と対象者

常用労働者(週30時間以上・1年以上雇用)加入義務あり
短時間労働者(週20時間以上)一定規模以上の企業で適用
日雇い労働者「日雇特例被保険者制度」で条件付き加入可能
一人親方社会保険適用外だが、「一人親方労災保険」に加入可能

社会保険未加入問題と行政対応

 未加入企業は行政指導や罰則、入札資格喪失、労災事故時の全額補償負担などのリスクがあります。

国土交通省や厚労省は公共工事の入札条件として社会保険加入を義務化し、CCUS(建設キャリアアップシステム)を活用した可視化を推進。企業は適正な加入を徹底する必要があります。


社会保険の適正管理

管理項目内容の概要目的・ポイント
適正な加入手続き正社員・対象労働者を確実に社会保険に加入させる。一人親方や短期労働者は個別に判断。加入漏れの防止/法令遵守
保険料の適正計算・納付標準報酬月額に基づき正確に保険料を算出。給与変動時は月額変更届を提出。保険料の誤徴収防止/スムーズな保険給付の実現
労務管理の透明化CCUS(建設キャリアアップシステム)等を活用し、労働者の就業・保険加入状況を記録・管理。未加入リスクの回避/対外的な信用性向上


社会保険料の計算方法

社会保険料は標準報酬月額に基づき、企業と労働者が折半負担。

最新の料率を確認し、適正な計算と管理を徹底することで、労働者の負担軽減とコンプライアンス強化につながります。


資金繰りを考慮した社会保険料の管理

管理項目内容の概要目的・効果
支払いスケジュールの把握社会保険料は「翌月末払い」が原則。支払日を把握し、資金を事前に準備する。支払い遅延の防止/信用維持
経費計上と原価管理社会保険料を労務費として見積に含め、正確な原価計算で利益を確保する。適切な利益確保/受注価格への正当な反映
キャッシュフローの確保資金繰りが厳しい場合は「分割納付制度」や短期借入などを活用する。支払い遅延の回避/金融機関や元請からの信用維持



デジタル活用による管理の効率化

DXを活用し、クラウド型労務管理システムを導入することで、手続きの効率化・正確な管理が可能となり、企業の負担軽減と法令遵守を強化できます。

建設業における労災保険のポイント

労災保険は、業務中や通勤時の事故による負傷・疾病・死亡を補償する制度で、建設業のすべての労働者が対象です。企業の加入が義務付けられ、治療費・休業補償・後遺障害給付・遺族給付が含まれます。一人親方も特別加入制度を利用することで補償を受けられます。

加入対象者と適用範囲

正社員・アルバイト・日雇い労働者雇用形態に関係なく労災保険が適用
一人親方特別加入制度を活用すれば、業務中の補償を受けられる
下請業者基本的には自社で労災保険に加入し、補償を実施
元請企業の責任労災事故発生時は安全配慮義務を負い、監督署の指導対象となる可能性があるため、下請業者の労災保険加入状況を確認することが必須

社会保険未加入業者のリスク

労災事故発生時の補償責任:未加入では企業が全額負担。休業補償・後遺障害給付のリスク増大。

行政処分・罰則:最大50万円の罰金や、労働基準監督署の是正指導。

取引・入札への影響:公共工事の入札資格喪失、元請企業との契約解除のリスク。

対応策:建設キャリアアップシステム(CCUS)の活用で社会保険加入状況を可視化し、未加入問題を防止。

労災発生時の対応フロー

1.初動対応:負傷者の救護・安全確保、二次災害防止。

2.労基署へ報告:「労働者死傷病報告」を提出(死亡・重篤事故は即日、4日以上の休業は30日以内)。

3.労災保険の給付申請:治療費・休業補償の手続き支援。

4.再発防止策:原因調査・改善策の実施、教育の強化。

適切な対応を行うことで、企業の信頼向上と災害防止につながります。

休業補償と給付金の種類

給付の種類内容
休業補償給付4日目以降、平均賃金の60%+特別支給金(20%)
療養補償給付治療費全額
障害補償給付後遺障害の補償
遺族補償給付死亡時の年金・一時金

企業は適正な申請手続きをサポートし、労働者が迅速に給付を受けられるよう支援することが求められます。

給与・賃金管理のポイント

建設業の給与体系は、正社員は月給制、職人・作業員は日給制・出来高制が主流。一人親方は工事単価で報酬が決まり、社会保険料は自己負担となります。

給与計算のポイント

出来高制:作業量に応じた報酬で高収入の可能性があるが、工期や天候に左右される。

時間給:労働時間に応じた給与で安定性があるが、収入上限が決まりやすい。

社会保険料控除:標準報酬月額を基準に計算し、健康保険・厚生年金は企業と労働者で折半。給与天引きで管理。

賃金支払いのルール

労働基準法に基づき、賃金は毎月1回以上、全額支払う義務があります。日給制・出来高制では透明性が重要。

残業通常賃金の25%以上増
休日労働35%以上増
深夜労働(22時~翌5時)25%以上増

時間外労働には36協定の締結が必要。未締結の超過労働は違法。

給与管理の課題と対策

・日雇いや一人親方の報酬管理は複雑で計算ミスのリスクがあるため適正管理が必要。

・CCUS(建設キャリアアップシステム)導入で労務管理の効率化。

  
  勤怠管理の簡素化:労働時間・就業履歴の自動記録

  社会保険加入の見える化:未加入者の確認が容易

  技能者の評価向上:資格・経験に基づく賃金最適化

給与デジタル払いの活用

銀行振込に加え、スマホ決済・電子マネーによる即時支払いが可能になり、労働者の利便性向上が期待される。ただし、法令遵守とシステムの安全管理が必須。

未払い賃金トラブルの回避策

契約書の明確化

勤怠管理システムの導入

CCUS活用による給与計算の透明化


さらに、労働基準法を遵守し、定期的な労務監査を実施することで未払いトラブルを防ぐことが重要。

建設業の労務管理における法令遵守と実務対策

建設業の労務管理と法令対応

建設業では多様な雇用形態に対応した適正な労務管理が求められます。

労働基準法・社会保険関連法の遵守が必要で、36協定の締結労災保険の適正加入CCUSの活用が有効です。


主な法令ポイント

 ①法定労働時間:1日8時間・週40時間超は36協定が必要

 ②割増賃金:時間外労働25%増、休日労働35%増

 ③社会保険加入義務:常用労働者は健康保険・厚生年金必須

 ④労災保険:雇用形態を問わず全労働者対象


違反が発覚すると是正勧告や行政処分の対象となるため、定期的な監査が重要です。

労務管理のデジタル化

労務管理のデジタル化により、業務効率化と法令遵守が可能になります。


・クラウド型労務管理システム導入により、勤怠管理の自動化・給与計算の正確化・行政手続きの簡素化を実現。


・電子申請で社会保険・労働保険のオンライン申請が可能になり、事務負担を軽減。

社会保険・労災管理の今後

今後、CCUSの活用により社会保険加入状況の可視化が進み、未加入対策が強化されます。


行政指導の強化:国土交通省・厚労省は、元請企業に下請業者の社会保険加入状況の確認を義務付け、未加入業者の排除を推進。


デジタル化の推進:CCUSやクラウド労務管理システム導入により、社会保険管理や給与処理が効率化。


AI/DXの活用:AI勤怠管理システムにより、顔認証・GPS自動打刻で不正防止や労働時間の最適化が可能に。

デジタル化と法令遵守の両立が、建設業の持続的成長の鍵となります。

まとめ

適正な労務管理で企業価値を向上させる

建設業における適正な労務管理は、企業の信用・成長に直結します。

社会保険・労災保険の適正加入、労働時間管理、デジタル化の活用により、法令遵守と業務効率化を実現し、人材確保・取引先の信頼向上につながります。CCUSやクラウド管理システムを活用することで、未払い賃金防止・労務トラブル回避が可能になり、勤怠・給与管理の自動化による業務負担の軽減が期待されます。

さらに、電子申請の活用で社会保険・労働保険の手続きを効率化し、管理の透明性を向上させます。適正な労務管理とデジタル化の推進により、企業価値の向上と持続的成長が実現できます。