建築資材価格の高騰や熟練職人の不足など、建設業界を取り巻く経営環境は依然として厳しい状況が続いています。こうしたなか、多くの地場ゼネコンや工務店では、新築案件を継続的に受注し続けなければ売上を維持しにくいという課題を抱えています。
一方で、引き渡し後の定期点検やメンテナンス、リフォーム提案などのアフターサービスを仕組み化し、施主との関係を継続的に築いている建設会社は、リピート受注や紹介案件を安定的に獲得しています。
こうした継続受注の仕組みは、営業コストの抑制や収益の安定化につながるだけでなく、将来も受注を生み出せる事業基盤として、M&Aでも高く評価される要素の一つです。
本記事では、アフターサービスの仕組みが企業価値につながる理由と、買い手企業が評価するポイント、さらにM&A評価を高めるための実務について解説します。
目次
建設会社のM&Aにおいて、買い手が重視する評価軸の一つが「引き渡し後も続く顧客との関係性」です。同じ売上規模や利益水準の会社でも、その収益がどのような仕組みで生み出されているかによって、企業価値の評価は大きく変わります。
| 評価項目 | 新規受注型 | ストック受注型 |
|---|---|---|
| 将来の売上予測 | 新規営業への依存度が高く、不確実性が大きい | 既存施主からのリピート受注を一定程度見込める |
| 営業利益率 | 相見積もりや価格競争に巻き込まれやすい | 特命受注が多く、高い利益率を維持しやすい |
| 買収後の承継リスク | 社長個人の人脈への依存度が高め | 顧客情報や運用体制を組織として引き継げる |
| M&A評価 | 一般的な収益力を基に評価される | 継続受注を見込める事業基盤として評価されやすい |
アフターフォローを仕組みとして運用している会社は、継続受注の再現性が高く、買い手にとって将来の収益を見通しやすい事業と評価されます。こうした「受注基盤の安定性」が、企業価値や譲渡価格の差につながるのです。
アフターフォローを仕組み化している建設会社の強みは、施主と継続的な関係を築いている点にあります。一般邸宅(住宅)と法人(工場・店舗など)の双方で、他社が入り込みにくい受注基盤が形成されます。
ライフステージに合わせた相談を継続的に受けられる
住宅は、築年数の経過とともに施主のニーズも変化します。「子ども部屋を増やしたい」「外壁を塗り替えたい」「水回りをバリアフリー化したい」といった相談が生じた際、定期点検などを通じて関係を維持している会社には、最初の相談先として声が掛かりやすくなります。その結果、価格競争に巻き込まれにくく、高い利益率を維持しやすい受注につながります。
規模の大きい特命案件を継続受注できる
法人施設では、建物の維持管理や設備更新が継続的に発生します。床の補修や外壁防水、設備改修などは工事規模も大きくなりやすく、「建物を最も理解している施工会社」として継続的に依頼を受けるケースも少なくありません。こうした特命受注は、収益の安定化にもつながります。
住宅・法人を問わず共通するのは、「困ったときに最初に相談される会社」というポジションを築いていることです。この信頼関係は、一度の工事だけでは得られず、継続的なアフターフォローの積み重ねによって形成される重要な経営資源といえるでしょう。
建設会社のM&Aにおいて、買い手企業が重視するのは、「買収後も安定して受注を維持できるか」という点です。建設業では経営者個人の人脈に仕事が紐づくケースも多く、社長交代によって売上が大きく変動するリスクは、重要な確認事項となります。
一方、既存施主から改修やメンテナンスの依頼が継続的に生まれる仕組みが組織として定着していれば、こうしたリスクは抑えられます。
買い手企業のM&A担当者の視点
「この会社を買収すれば、過去の顧客リストや点検体制を引き継ぐことで、既存施主からの改修工事やメンテナンス案件を継続的に受注できる可能性がある。将来の収益を見通しやすい会社ほど、買収後の事業計画も立てやすい。」
また、「建てた後も継続して対応してくれる会社」という地域での評価は、長年の実績によって築かれた信頼そのものです。こうした信頼は短期間で再現することが難しく、買い手企業にとっては重要な無形資産として評価されます。
建設会社のM&Aでは、収益力を基に企業価値が評価されるのが一般的です。一方で、リピート受注率や特命受注比率が高く、将来の収益を一定程度見通せる会社は、その安定性が企業価値へ反映されることがあります。
買い手企業が「買収後も継続的な収益を期待できる」と判断できるかどうかが、最終的な評価や譲渡価格に影響を与える重要なポイントとなります。
アフターフォローの価値をM&Aの買収監査(デューデリジェンス)で適切に評価してもらうには、その仕組みが「社長の頭の中」ではなく、「組織のデータ」として客観的に確認できる状態になっていることが重要です。
特に、以下の3つは買い手が重視するポイントです。
顧客資産の可視化
施主情報や図面、修繕履歴をクラウドなどで一元管理し、「どの物件で、いつ頃、どのような修繕需要が見込まれるか」を把握できる状態にしておきます。こうしたデータは、将来の収益を見通すための重要な経営資源として評価されます。
属人性の排除
「引き渡し後3か月・1年・3年・5年・10年」などの点検時期やチェック項目を標準化します。担当者が変わっても同じ品質で運用できる体制は、事業の承継性や再現性を示す重要な材料となります。
将来の収益根拠の提示
売上に占める既存施主からの追加工事・リフォームの割合や、特命受注比率を数値化しておきます。「売上の○%がリピート受注で構成されている」と示せれば、継続的な収益基盤を裏付けるデータとして評価されやすくなります。
これらの取り組みは、M&A対策にとどまらず、日常の経営管理にも役立ちます。点検計画や顧客情報が整理されていれば、将来の受注見込みを把握しやすくなり、人員配置や資材調達の計画精度も高まります。
多くの建設会社が目の前の新築工事に追われるなか、引き渡し後も施主と向き合い、「建てた後の安心」を提供し続けてきた企業には、決算書だけでは測れない価値が積み重なっています。
アフターフォローを仕組み化している建設会社は、将来の収益を見通しやすい事業として、M&A市場でも高く評価される傾向があります。リピート受注率や特命受注比率、施主リストなどの顧客情報を適切に整備・可視化しておくことが、企業価値の向上につながります。
「自社のアフターフォロー体制は、M&Aではどのように評価されるのだろうか」「今のうちに整理しておくべき情報は何だろうか」とお考えでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。
貴社の事業内容や受注体制を丁寧にお伺いし、円滑な事業承継・M&Aに向けた準備についてご案内いたします。
この記事の執筆者

井上 絢翔(Kento Inoue)
國學院大學法学部卒業後、建設業界の法人営業を経て株式会社インフィニティライフに参画。現在は学習塾業界を中心にM&Aアドバイザーとして活動。
前職の知見と誠実な姿勢を活かし、経営者の想いに寄り添う支援に注力している。