地方のインフラ、住宅供給を支える建設業において、資金繰りの悪化や自主廃業、そして法的整理(倒産)の件数が急速な増加傾向にあります。業績自体は堅調に見える企業であっても、突発的な資金ショートを起こして行き詰まるケースが散見され、予断を許さない経営環境が続いています。
この建設業界における倒産急増の背景には、単一の要因ではなく、複数の構造的な課題が同時に押し寄せているという実務上の実態があります。具体的には、「世界的なインフレに伴う建築資材価格の高騰」、「慢性的な人手不足がもたらす人件費の上昇」、そして「固定化された多重下請構造による価格転嫁の難しさ」という3つの負荷が、中小企業の収益力を限界まで圧迫しているのです。
本記事では、これら3つの要因がどのように建設会社の気づかないうちに、会社の経営体力を削ってしまっているのか、その具体的なメカニズムを解説するとともに、将来的な事業承継やM&Aを見据えるために必要な実務上の視点を紐解きます。
目次
近年の建設業倒産を牽引する第一の要因は、各種建築資材の断続的な価格高騰です。木材、鋼材、セメント、生コンクリートから、設備機器や配管部材に至るまで、建設実務に関わるほぼ全ての資材原価が急速に上昇しています。
ここで重要となる論点は、建設業特有の「受注から完工・引き渡しまでのタイムラグ」です。建設工事は注文を受けてから実際に工事を完了し、引き渡すまでに数ヶ月から、大規模な案件であれば1年以上の歳月を要することが一般的です。そのため、見積もりを算出し、請負契約を結んだ時点の資材相場と、実際に資材を発注・仕入れる時点の相場との間に、大幅な乖離が生じるリスクを常に孕んでいます。
契約時にインフレ分のリスクを見込んで見積もりを創れる一部の元請け企業とは異なり、中小企業の場合、契約後の資材値上がり分を自社で吸収せざるを得ないケースが多々あります。結果として、現場は稼働しているにもかかわらず、進捗とともに原価が膨らみ、最終的な完工段階で総利益が完全に消失して赤字に転落するという構造が定着してしまっているケースが散見されます。
第二の要因は、職人や施工管理技士の高齢化・減少に伴う人件費および外注費の高騰です。現場のマンパワーを確保するためのコストは上昇の一途をたどっています。
特に自社で職人を抱えず、外部の協力会社に施工を依頼している企業の場合、外注単価の上昇は直ちに売上原価の増加を意味します。人手を確保できなければ工程が遅延し、元請けからの信用失墜や遅延損害金の発生リスクを負うため、経営者は赤字覚悟で高額な外注費を支払ってでも現場を回さざるを得ないという悪循環に陥ります。
さらに、時間外労働の上限規制(いわゆる建設業の2024年問題)の適用以降、労務管理の適正化に伴う手当ての支給や、週休二日制の導入に伴う工期の長期化が、実質的な労務コストを一段と押し上げています。限られた予算の中で人件費だけが膨張していく実態は、せっかく積み上げてきた会社の純資産(経営体力)をじわじわと目減りさせる要因になり得ます。
資材価格や人件費が上昇した際、本来であればその増加分を発注者や元請け企業に対して請負金額の増額という形で「価格転嫁」することが企業が発展していくための重要なポイントです。しかし、これが極めて困難であるという点に、「下請構造」の問題があります。
建設業界は、ゼネコンなどの大手元請けを頂点とし、一次下請け、二次下請けへと繋がるピラミッド型の多重下請構造が定着しています。下請けの立場にある企業は以下のような実務上の制約から、価格交渉の席につくことすら容易ではありません。
・「見積もり比較」による受注機会の喪失リスク
増額を要求すれば、次回の案件から他の競合他社に発注を切り替えられるのではないかという心理的圧力が常に働きます。
・契約変更の慣習不足
当初結んだ請負契約書の金額が重要視され物価変動に伴う「スライド条項」の適用を求めても、元請け側の社内決済の手間などを理由に、交渉を拒絶される事例が散見されます。
・立場の非対称性
元請け企業との長年の関係性や、将来的な案件継続を優先するあまり、目先の赤字を自社で耐え忍ぶことが商習慣が根強く残っています。
このように、資材高騰と人件費上昇という「入り口のコスト」が上昇しているにもかかわらず、下請構造ゆえに「出口の価格」へ転嫁できないという板挟みの状態が、倒産企業を増加させている最大の構造的要因と言えます。
こうした厳しい経営環境の中、自力での存続に限界を感じ、第三者への株式譲渡や事業承継を目指してM&A市場に参入する建設会社も増えています。その際、買い手企業が選定した公認会計士や弁護士による買収監査(デューデリジェンス)において、企業の生死を分ける財務指標としてチェックされるのが「原価管理の正確性と仕組み」です。
具体的には、単に「決算書上で黒字が出ているか」だけでなく、個々の工事案件ごとに「実行予算」が適切に組まれ、日々の進捗に応じた原価の推移がリアルタイムで把握されているかが精査されます。
監査において、以下のような状態にある企業は、将来的な資金ショートのリスクを内包していると判定され、買収価格の減額や、交渉決裂に至る傾向があります。
・現場ごとの原価計算が曖昧で、完工するまで最終的な利益(赤字か黒字か)が確定しない。
・下請け企業や仕入れ先からの請求書の回収が遅れ、未払金の計上が翌期にズレ込んでいる。
・元請け企業との間で、追加工事に関する書面(変更契約書や発注請書)を交わしておらず、口頭約束のまま実施工を進めている。
逆に、下請けの立場であっても、自社の原価構造をクリアに数値化し、元請けに対して論理的なデータをもとに増額交渉を行えている企業は、「再現性の高い企業」として、買い手企業から評価される傾向があります。
資材高騰、人件費上昇、価格転嫁の難しさを前に、努力だけで現状を打開することには限界があることも事実です。このような局面において、企業の倒産や自主廃業などの選択肢に加えて検討すべき選択肢の一つにM&Aがあります。
確かな施工技術や地元の職人ネットワークを持ちながらも、規模の小ささゆえに仕入れ価格の交渉力が弱く、元請けへの価格転嫁ができなかった企業が、購買力と受注力を持つ企業の傘下に入ることで、以下のようなシナジーを発揮し、企業の存続を図ることが可能となります。
・仕入れ原価の低減: グループ全体のボリュームを活かした一括購買により、資材の調達価格を抑える。
・交渉力の強化: 大手の信用力を背景に、不当な買いたたきや一方的なリスクの押し付けを抑止する。
・資金繰りの安定化: 親会社の資本によるバックアップと個人保証の解除により、経営の安全性を確保する。
建設業の倒産件数が増加しているという事実は、裏を返せば、これまで通りでは生き残れない時代が到来したことを示しています。自社の原価を正確に把握し、契約の適正化を進め、特定の人材や元請けに依存しない組織体制を整えることは、日々の倒産リスクを低減するだけでなく、将来の事業承継において「買い手が付きやすい優良企業」へと自社を磨き上げることと同義です。
ビルドマでは、建設業の特性を理解したアドバイザーが、決算書の数字だけでは見えてこない貴社の「施工実績」や「協力会社との絆」といった価値を整理し、最適な買い手企業様へのバトンタッチを中立的な立場でご支援しております。
どのような実務上の実態であっても構いません。まずは将来に向けた情報交換の機会として、お気軽にご相談ください。
この記事の執筆者

井上 絢翔(Kento Inoue)
國學院大學法学部卒業後、建設業界の法人営業を経て株式会社インフィニティライフに参画。現在は学習塾業界を中心にM&Aアドバイザーとして活動。
前職の知見と誠実な姿勢を活かし、経営者の想いに寄り添う支援に注力している。