03-6258-5203

現場の環境改善が企業の価値を決める。建設会社が若手・女性に選ばれ、M&Aで高く評価される理由

2026年6月15日
建設会社M&A

 地方都市や郊外を基盤とする建設業において、持続的な成長を維持するための最重要課題の一つが、「若手入職者の確保と離職率の低下」です。

 多くの経営者様が「求人を出しても応募が集まらない」「現場の高齢化が止まらない」という深刻な課題に直面されています。これまでインフラや住宅を支えてきた現場の多くは、依然として長時間労働や休日出勤の常態化、固定観念から脱却しきれていない面があり、これが若年層や女性の就職選択肢から外れるケースが見られます。

 しかし、激化する人材獲得競争の中で、いち早く現場の就労環境を改善し、多様な働き方を求める若手人材や女性の採用に成功している会社が存在します。こうした企業は高い生産性を維持しているだけでなく、将来的な事業承継やM&A市場においても、買い手から高い評価を受ける傾向があります。

 少子高齢化が進む日本において、「人材を安定的に雇い、定着させることができる組織体制」は、プラス査定になり得るからです。


 本記事では、施工現場の環境改善がどのように評価されるのか、その財務・実務的な背景を解説します。

1. 構造的な人材不足と「就労環境」という論点

 建設業界全体の有効求人倍率は他業種に比べても高水準で推移しており、職人や施工管理技士の獲得競争は激化しています。その背景には、少子化という人口動態の影響だけでなく、現場の「環境」そのものが現代の求職者の価値観と乖離しつつあるという構造的な問題が存在すると考えられます。

 特に、結婚や育児といったライフステージの変化に対して、従来の働き方は柔軟に対応しにくい面がありました。天候や工程に左右されるため突発的な残業が発生しやすく、休日が不定期になりがちであることから、育児との両立を望む女性や、プライベートの時間を重視する若い世代が定着しにくい土壌があったことは否めません。

 また、現場の仮設トイレの衛生状態や、専用の更衣室がないといった物理的な環境も、女性の入職を阻む要因の一つになっていたのではないでしょうか。不満に感じながらも「業界の慣習」として放置されがちだった部分にメスを入れ、制度と環境を刷新することが、他社と差別化を図るための大きな突破口となる可能性を秘めています。

2. 現場環境のハード・ソフト両面における具体的な改善実務

 女性活躍や誰もが働きやすい現場づくりを進めるにあたり、先進的な会社が実践している取り組みは、大きく「ハード面の整備」と「ソフト面の制度改革」の2点に集約されます。これらは単なる一時的な投資ではなく、組織のガバナンスを強固にする仕組みとして機能することが期待されます。

ハード面の整備:身体的・心理的負担を軽減する現場環境

 第一に取り組むべきは、従来の「きつい・汚い」という現場イメージの払拭です。具体的には、以下のような環境整備が挙げられます。

 一人の労働者としての尊厳を守る環境づくりを徹底することが、結果として入職のハードルを下げる要因となります。

ソフト面の整備:多様なライフステージに対応する就労制度

 どれだけハード面を整えても、ライフイベントによってキャリアが断絶してしまう働き方のままでは、人材は定着しにくいものです。そこで重要視されているのが、柔軟なシフト制や週休2日制(土日祝の現場休み)の徹底です。

 雨天や工程の進捗に左右されやすい建設業において、施工管理業務の一部をバックオフィス(内勤サポート)へ移管して分業化を図ることにより、現場監督の負担を軽減し、有給休暇の取得や時短勤務を可能にする仕組みが求められます。これらの取り組みが属人化せず、「会社のルール」として運用されていることが、外部から高く評価される土台となります。

3. 買い手企業が検証する「採用コストの削減」と事業継続の経済価値

 M&Aにおいて買い手企業となる大手企業は、豊富な資金力や案件受注力を備えている一方で、地方や実施工の現場における「人手不足」には頭を悩ませています。

 大企業が地方都市へ進出したり、新しい工種へ参入したりしようとする際、求人広告を大量に出しても、「従来の商習慣」では、若手や女性の採用は困難を極めるケースが少なくありません。1人の技術者を公募で採用・育成するためにかかる時間やコスト、さらには早期離職に伴う損失は、実務上、数百万円規模に達することも珍しくありません。

 そのため、買い手企業が買収を検討する際、すでに地元で「女性や若手が生き生きと働き、定着している組織」が存在する場合、その企業を獲得することは、将来にわたる「人材確保の不確実性」を解消することを意味します。

 売り手企業が長年かけて培ってきた「働きやすい会社」としてのブランドや採用ルートは、買い手企業にとっては「将来の採用・教育コストの回避」として換算されやすく、これが譲渡価格が上がる大きな理由となり得ます。

4. 買収監査(DD)において専門家が精査する「組織の持続性」

 M&Aの合意交渉が本格化すると、買い手側が選定した弁護士、社会保険労務士、公認会計士などの専門家により、売り手企業の「買収監査(DD)」が実施されます。就労環境や多様性の推進度合いを評価する際、主に精査されるのは以下の3つです。

① 労働基準法および関連法規の遵守状況(労務監査) 36協定の上限規制を遵守しているか、サービス残業や未払い残業代がないか、過去数年分のタイムカードや賃金台帳から検証されます。法的にクリーンであることが基本的な前提となります。
② 過去3年間の離職率と平均勤続年数 自社の離職率が業界平均を下回っているか、特に若手や女性の定着率がどう推移しているかが数字で確認されます。定着率の高さは、現場のマネジメントが正常に機能している根拠と捉えられます。
③ 資格保有者および技術の承継状況 施工管理技士(1級・2級)や熟練の職人のなかに若手や女性がどの程度含まれているかを精査します。高齢のベテランだけに依存せず、次世代への技術移転のパイプラインが形成されているかどうかが、将来の収益性を判断する材料となります。

5. 時代の変化を捉えた「攻めの事業承継戦略」としての環境改善

 建設業界における「女性活躍・ワークライフバランスの推進」は、一部の先進企業だけが取り組む特別なことではなく、時間外労働の上限規制(建設業の2024年問題)を経て、今や企業の存続を左右するガバナンスの標準基準となりつつあります。

 少子高齢化や後継者不在により、単独での生き残りに課題を感じている建設会社の経営者様にとって、これまでの商習慣から脱却し、誰もが働きやすい近代的な組織へと社内改革を進めることは、日々の業績向上に留まらない、有効な事業承継対策となり得ます。

 買収後に自社の既存の人事制度や給与テーブルを適用しやすいクリーンな組織であればあるほど、買い手企業は統合後のリスクが低いと判断し、売り手経営者様の希望条件に対して前向きな姿勢を示しやすくなる傾向があります。

現場に遺した「仕組み」が、創業者としての最大の評価に変わる

 これまで地道に現場の環境を整え、従業員の満足度を高めるために尽力されてきた経営者様の努力は、決して無駄にはなりません。それらは、人材難に苦しむ現代において、第三者が手に入れたいと熱望する経営インフラそのものと言えるからです。

 これまでの職人の『卓越した技術や経験』を大切にしながらも、それを誰もが共有できるマニュアルやシステムへと落とし込み、多様性のある組織を構築しておくことこそが、次世代へ会社を安全に引き継ぐための重要な第一歩となります。

 ビルドマでは、M&Aをお手伝いする中で、データだけでなく、経営者様が現場の皆様と積み上げてこられた「採用力」や「就労環境の質の高さ」といった、目に見えない強みも評価へと繋げる支援を大切にしています。

 会社の歴史に寄り添い、共に価値を最大化するパートナーとして、誠実にサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。



この記事の執筆者


井上 絢翔(Kento Inoue)

國學院大學法学部卒業後、建設業界の法人営業を経て株式会社インフィニティライフに参画。現在は学習塾業界を中心にM&Aアドバイザーとして活動。

前職の知見と誠実な姿勢を活かし、経営者の想いに寄り添う支援に注力している。